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日本唯一の落下傘部隊「第1空挺団」。武力侵攻や大規模災害などがあった際、航空機から隊員が降下したり、車両や火砲、弾薬、燃料、補給品等を投下したりする空挺作戦を担う部隊です。
最精鋭と名高い彼らが使用する落下傘の整備を行う部隊を、皆さんご存知でしょうか?
空挺隊員は降下しても自分で落下傘を畳めないんです。
落下傘を畳むプロがいるんですよ。
部隊見学で実際に畳んでいるところを拝見できると聞き、習志野駐屯地まで向かいました。
知られざるプロフェッショナル部隊
落下傘整備中隊は、1958年に創設された降投下に必要な装備品の補給・整備等を行う唯一無二の専門部隊です。
落下傘整備中隊の隊員も皆、基本降下課程1を修了しているため、空挺降下の資格「空挺き章」を所持しています。
それもそのはず、空挺隊員たちが使う落下傘の整備を請け負うためには、自分で畳んだ落下傘を装着し自ら降下するという認定試験への合格が必須。
整備不良は仲間の命を危険に晒しかねないため、責任の重さや恐怖と向き合いながら、教育課程で身につけた技能の腕前と安全性を、自分で畳んだ傘と自分の命で立証してみせるのです。
初等落下傘教育と試験
選定にあたり、手先の器用さや慎重さなどが重視されるのでしょうか?
貴重な人命を左右する作業が主になりますので、極めて優秀な隊員を選定しています。
配属後、約10週間にわたる初級落下傘教育を受講し、落下傘の畳み方やコツをマスター。修了後、認定試験に合格すると、赤帽(資格帽)が付与されます。
合格できなかった場合、再検定を受けることは可能です。しかし、過去に不合格で「落下傘包装の適格性がない」と判断され、資格認定が付与されなかった隊員も存在します。
認定試験に受かった隊員のみが、自ら畳んだ落下傘2で2回の降下を実施。実降下にて落下傘の安全性を確認したのち、空挺隊員が使用する落下傘の包装が許されるのです。
降下前後の心境に変化はありましたか?
自分で畳んだ落下傘で降下するときは、緊張や不安でいっぱいでしたが、落下傘の畳み方を教えてくれた教官の顔が浮かびました。
降下発揮後、落下傘が無事に開傘したときには、安心感とともに、自信がついたのを覚えています。
あわせて、仲間が使用する落下傘を畳むうえでの責任感も養われたと感じました。
落下傘整備心得
- 自分の行った全ての作業に対し絶対の責任を負う
- その作業は、常に貴重な人命を左右する事を自覚し、自分自身が使用するつもりで作業を行う
- 作業の全てにおいて、点検確実に行い、如何なる些細な見落とし、或いは如何なる小さな欠陥でも見逃さない
- 作業は想像によったり、あやふやないい加減な作業をしたり、独断的な作業を行わない
- 常に、物資の愛護・節用に努める
- 絶えず整備技術の錬磨に努め、作業能率の向上を図る
仕事内容
作業の流れは下記の通りです。
- 発進飛行場での交付
- 降下場地域での回収場にて使用済み落下傘の回収
- 運搬
- 点検3、包装、保管
発進飛行場での交付
発進飛行場において、「落下傘の固有番号」と「降下員の名前」を記録に残します。
使用済み落下傘の回収・工場への運搬
降下後、回収所に返納された落下傘を、落下傘整備中隊の回収勤務員が回収し、工場まで運搬を行います。
1階に洗浄室、乾燥室、保管室
2階に点検・包装する場所があります。
点検・包装・保管
点検・包装する部屋の壁には、「歴代落下傘包装受賞者」と書かれた板が。
現在は、2000個包装達成および4000個包装達成の節目で表彰を行っているそうです。
包装する際、点検作業(全14工程)も同時に実施。落下傘折り畳み台4の上に広げ、外観全てに異常がないかを点検した後、作業と同時進行で開傘過程に影響する重要なポイントの点検を行います。
落下傘の種類によって包装所要時間は変動しますが、空挺団で主に使用する13式空挺傘主傘の場合、一つにつき通常60分以内で完了するのだとか(エースは30分以内)。
毎回洗うわけではなく、汚れが酷い場合のみ、約3m×約12mの浴槽で洗浄し、約30mの高さから吊して乾燥させます。なお、海上での降下訓練を実施した場合は塩抜きが必要なため、必ず洗浄および乾燥を実施するそうです。
海水がカビの原因に。
包装後、落下傘についている「落下傘経歴簿」へのサインが義務付けられています(責任の明確化)。
包装した落下傘を、湿度管理が徹底されている保管室に保管して完了です。
なお、空挺団で使用する落下傘の包装を、「需品教導隊」や「落下傘部および補給統制本部」が一部実施することもあるのだとか。
点検時に破損が見つかったら
破れていたり穴が開いていたりした場合は、「関東補給処松戸支処 落下傘部」へ後送します。
落下傘整備中隊と同じく初級落下傘教育を修了した隊員が配属されています。
落下傘の修理はすべて落下傘部で行っており、こちらで修理ができないものは外注整備となるのだとか。
赤帽と前掛け
昔は包装時に赤い帽子と前掛けを着用していたそうです。
赤帽は試験に合格したら付与されることがわかったけれど、前掛けは廃止になったのかな。
現在も継承しています!
本当だ!
先入観から帽子と同じ赤色を想像していたため、作業服と同化した前掛けに気づきませんでした。
落下傘
現在主に使用されている落下傘は、平成25年度に採用された日本製(藤倉航装製)の「13式空挺傘」です。操縦性能が高く、降下中に落下傘同士が接触しても、しぼみづらいのが特徴といえます。
落下傘の主な種類
- 13式空挺傘主傘
- 13式空挺傘予備傘
- 696MI空挺傘主傘
- 696MI空挺傘予備傘
- MC-4主傘
- MC-4予備傘
- RA-1(自由降下傘)主傘
- RA-1(自由降下傘)予備傘
- GQ-9(高高度投下用)
- 物料傘1号~4号(号数によりサイズが異なる)
- 抽出傘
使用期限
13式空挺傘主傘の包装後の使用期限は4ヶ月と規定されています。4ヶ月が過ぎた落下傘は降下に使用できないため、すべて展開し、点検後に再度包装するそうです。
また、落下傘の整備基準により、規定の年数又は規定の使用回数によって廃棄となります。
落下傘を装着してみた
実際の装備品を筆者も装着してみました。
今回装着したのは、「自由降下傘 MC-4」。
偵察部隊や誘導隊の隊員が、高高度から隠密かつピンポイントに降下する際に使用する落下傘です。降下訓練では、最大6,000mの高度から降下します。
高高度は酸素マスクを着用します。
自由降下傘 MC-4の性能・諸元
主傘、予備傘一体型
背負型、手動索・自動開閉装置のいずれでも開傘
重量 | 約22㎏ |
主傘長 | 約8.7×4m(方形) |
開傘時間 | 3.5秒以内 |
降下高度 | 約1万~3,000m |
降下する際に89式5.56mm小銃(折り畳み式)や、必需品・食料などが入った背のうも装着します。
160㎝46㎏の筆者は、くるくる回ってみただけでふらつくという体たらく。一方、179㎝75㎏の父はスクワットをしたり、飛び方を教わったりしていました。
機会があれば、13式空挺傘も背負ってみたいです。
絶対の安全性を保証
2024年5月23日に120万個包装を達成。
これまで、整備不良による事故は一度も起きていないそうです。
仲間の信頼を一身に背負い、責務と誇りを堅持する落下傘整備中隊の隊員たちに、尊敬の念を抱いたのはいうまでもありません。
お忙しい中ご対応いただき、ありがとうございました。
今後とも落下傘整備中隊をよろしくお願いいたします。
脚注